人が空を飛べないその理由を、
いつだったか誰からか聞いた。
幼い頃のおぼろげな記憶。
そこに出て来た背の高い黒い影、
しかしながらも暖かい表情のその男は、囁くように話し始めた。
人が空を飛べないのはね。
人が空を飛べないのは、
その空を飛ぶ切なさに、人では寂しくて堪えられないからなんだ。
人は、
その広すぎる空から、
ちっぽけな大地を見下ろして、
その寂しさと儚さ、孤独感に耐えられるほど強くないから、
だから人は空を飛べないんだよ。
男は空よりは狭いこの大地に立ち、遠い眼でもって空を見上げていた。
手を広げて翼のはためく真似をしながら、
それでも、空を飛べないわけを話し続ける。
鳥は人より勇敢だったんだ。
君は知ってるかい?
これはね近年分かってきた事なんだが、
鳥は思った以上に頭のいい動物で、
特に視覚感覚はずば抜けているんだそうだよ。
鳥は大地を蹴って羽ばたいたその日から、
人の代わりにその光景を見続ける道を選んだんだ。
その役目を全て引き受けて、
一心に切なさを背負って、
孤独で何もない空を一人で飛び続けている。
僕はこの事から想像したんだ。
鳥類の祖先は恐竜。
人類はまだ生まれて数百万年足らずだが、
恐竜は過去、何億年も生きた。
何億年も生き抜いて、
きっとその結果として、その切なさの真理みたいなモノに辿り着いて、
結果、大地を蹴ったのではないだろうか。
最も悲しい領域に最初に挑んだんだのではないのだろうか。
他の種族が自分たちの悲しみを引き継いで行かないためにも、
そしてそれ以上に、空を生物圏として独占して、
その悲しい場所に誰も入って行けないようにしたんだと僕は考えるんだ。
君はどう思うかい。
これは単なる僕の妄想かな。
だって鳥はあんなにも悲しそうな眼をしてるだろう。
あそこにある自由はきっと≒孤独。
見ているだけで人を魅了する、危険な青。
それはやがて赤となって、最後は黒になる。
でもね、
人はやはり、いつの日にか、その力で飛ぶ。
それは恐らく「夢」と言う。
どこで間違えたのか、
僕らは夢を持った勇気のある不合理な生き物となった。
不合理は人を支え、
今日も明日も僕らは夢を見るだろう。
もしかすると、この星ははまだ白亜紀で、
そしていっそのこと、
僕たち自身、
冬眠中の恐竜が見ていた夢であったら。
僕の心が寂しさから救われる事もあるのだろうか。